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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)468号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点について。

所論一は、原審の認定に即しない事実を主張するもので、結局、原審の認定を争い、それを前提として原判決を攻撃するに帰する。論旨引用の判例は、当事者の意思解釈上、当該権利金は、賃貸借終了の際返還すベき約旨のものかどうかが問題となつた場合であり、これに反し本件では、当事者の約旨によれば右権利金は返還を要しないとする趣旨であつたことが原判文上明白であるから、所論の判例は本件に適切でない。

所論二は、別件の判決について云々するが、右事件は、本件とは当事者および訴訟物を異にし、法律上別個の事件であることは上告人の主張自体に照らし明白であるから、所論の争点について、両裁判所の判断が異なつても、当然には違法ということを得ない。

ところで、本件権利金については、原審は「賃借人たる被告(上告人)自ら進んで土産名義に原告(被上告人)に交付たものである」と認定しているのであり、その他原判文の全趣旨からすれば、上告人は、本件賃貸借契約の締結に当り、被上告人に対し、本件権利金の支払を約し、法律上その支払義務なきことを知りながら、これを弁済した事実をも確定していることがうかがわれるのであつて、原審挙示の証拠によれば、右認定は首肯し得るのである。しからば、他に特段の事由の認められない本件においては、上告人がその返還を請求できないことは、民法七〇五条に照らし明白であり、したがつて、本件権利金の支払が民法七〇八条の不法原因給付に当るかどうかの点については暫くおき、原審が、右権利金の返還義務を否定したのは正当として是認し得る。

それ故、所論は採用できない。

第二点について。

被上告人は本件アパートに管理人を置く義務のないことは、原審判示のとおりである。所論は独自の見解で採用に値しない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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